入れ歯の豆知識 vol.1《入れ歯治療の基礎知識》
投稿日:2019年1月29日
カテゴリ:入れ歯の豆知識
入れ歯のことでお悩みの方、歯医者さんの入れ歯治療がよく分からないという方に、どのように情報提供させて頂くのが良いか、いつも悩んでおりました。
やはり総論的な話ではなく、個別にしっかりお話を伺うような相談が一番良いのではという結論に至り、現在は1日1組ですが、昼休みに入れ歯の無料相談を開催している次第です。
たた、これにも限度がありますので、つたない経験ではありますが毎年200人近い義歯、入れ歯の相談、治療に携わったきたことを発信し、参考にして頂ければと思いました。
Q&Aコーナーとしては、これまでの患者さんからの質問には回答しており、これも継続して参りますので、ここでは少し歯科臨床の技術的なことを中心に発信したいと思います。
参考書籍を探して見つけたのが「歯科国試パーフェクトマスター」という歯学部の学生向けの本でした。なるほどと、私も初心にもどりつつ、「パーシャルデンチャー補綴学(部分義歯の被せ物などの学問)」からも紹介させていただきます。
歯科医師というのは、こういう考え方の下で、治療しているのだというのが解ると、参考になるかもしれません。
歯の欠損と部分義歯
想像に難くないと思いますが歯の欠損の数は、やはり年齢とともに多くなる傾向にあります。
口腔衛生状態の向上によって歯を失うことは年々少なくなってきています。ただし、年齢を増すごとに歯の喪失数が増加するという傾向は、今も続いています。
歯の場所による歯を失う傾向
歯の場所(種類)によって歯を喪失する割合が異なります。残存しやすい歯, 喪失しやすい歯があり、一般に大臼歯の欠損率が高く、次に小臼歯、前歯、犬歯の順に低くなる傾向があるようです。
当院に相談に来られる方でも、奥歯が欠損してしまい、ブリッジ治療、インプラント治療と並行して入れ歯治療を検討されているとケースが多くいらっしゃいます。
歯を失ってしまう理由
一つは、老化因子という原因があります。
一般に50歳を過ぎると細胞の代謝活性, 組織の反応, 適応性などが急激に低下します。
こうした傾向はお口の中や回りにもみられ、補綴治療(被せ物や義歯の治療)の先々の予後を考え時に十分配慮する必要があります。特に多い加齢変化としては
- 咬耗
- 辺縁歯肉の退縮
- 顎骨, 筋の変化
などがあります。しかし、これらの生体組織の老化のみで歯が失われるわけではありません。
歯が欠損すると歯だけがなくなるのではなく、歯根膜という組織も失われるため 歯根膜内に局在していた神経の感覚受容器を失うことになり、さらに歯槽骨(歯を支えている骨)も吸収され顎骨の形態も変化を受けることがあります。
歯が抜けたままの状態を長く続けている方がいらっしゃいますが、これは歯はもちろん、歯根膜という大切な脳へのセンサーを失うことの弊害を考える必要があります。
歯がないことで、噛むという装置が変化してしまい、正しい刺激が脳に行かないというリスクをできるだけ減らす治療(補綴や、インプラント、ピッタリあった入れ歯など)が重要なのはここにもあります。
二つ目は病的因子です。
歯の欠損にかかわる直接的な原因として次のようなことががあげられます。
- う蝕(虫歯)
- 歯周病
- 外傷
- 矯正治療のため
- 位置異常歯
- 口腔腫瘍
- 先天異常
また,、これらを助長してしまう全身的な因子もあります。 糖尿病や肝疾患があると感染に対する抵抗力は低下します。認知症や脳血管障害による運動障害が生じると口腔ケアが不十分となるため, 虫歯や歯周病にかかりやすくなってしまいます。
歯の欠損により生じる変化
- 機能的変化~咬合力, 咀嚼の機能が低下します。
- 感覚的変化~歯根膜(感覚受容器)の消失します。
- 形態的変化~歯槽骨が吸収します(骨が溶けると言われるところです)。
歯の欠損に伴う障害
まず一次性の障害があります。これは歯を失って、比較的早く表れる障害です。
- 咀嚼障害 (噛むこと)
- 発音障害 (しゃべること)
- 感覚障害 (感じること)
- 審美障害 (見た目)
次に二次性の障害と言われるものです。
時間の経過とともに咬合、歯周組織、歯並びに生じる病的な変化です。
- 歯が移動、傾斜、挺出(つき出てくる、伸びてくること)
- 隣接接触点の喪失
- 咬合接触の変化(早く接触したり、余計なところが当たったり)
- 咬合位置の変化
- 食べもののカスが挟まったり、はぐきの炎症、隣接面の虫歯 などです。
最後に三次障害と言われるものがあります。
それは、上記の二次性障害により咬合異常が生じ、ここに歯ぎしりや食いしばりなどが加わり筋や顎関節の障害です。
歯の欠損と口腔関連のQOL
医療技術の進歩によって寿命が伸び, 超高齢社会の現在、医療の目的が延命から生命の質の尊重へと変化し、生活の質(quality of life: QOL)の重要性が認識されるようになりました。
歯科においても、患者さんによる治療に対する満足度や患者のQOL評価が重要視されているのではないでしょうか。
歯を失うことは、口腔関連QOL (oral health related quality of life)とよばれるお口の健康に関連したQOLを損なう大きな原因になっています。
今後も当院では、QOLを向上させるために、私たちは歯を失うことがないように大切な予防を広め、あいにく失ってしまった歯に対しては、適切な補綴治療を提案しいきたいと思います。
出典:「歯科国試パーフェクトマスター パーシャルデンチャー補綴学」 出版社:医歯薬出版株式会社
著者 阿部友佳(昭和大学講師) 岩佐文則(昭和大学准教授) 馬場一美(昭和大学教授)
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